テレビの向こうの彼は


ワタシにとって


遠い存在に、なってしまったのでしょうか――――――?




『愛実さ〜ん!僕の胸に・・・』
『誰が飛び込むのよ!!』

・・・・・・・・なんか、嫌。
あたしは今、てれび戦士ではありません。
去年まで、そうだったけど。
新しく放送が始まって、早二週間。
“彼”が出てるから、あたしは天てれを見てるんだけど・・・。
――――――――見ないほうが、よかったのかもしれない。

あたしの彼氏、ド・ランクザン・望。
もんのすっごいナルシストで、周りが引くほど自信満々。
・・・・・・そのくせ、優しくて、本当にかっこいい。
新人当初は、女子戦士みんな『キモイ』だの『うざい』だの言いまくってたくせに、
いつの間にか大好評。
あたしだってそのひとり。
最初は関わりたくもないぐらい、大っ嫌いだった望。
それが今は・・・・。

「付き合ってるんだもんなぁ・・・」

きっと、今もモテモテなんだろうな。
だから・・・・・。

『愛実さん!僕の膝を御貸しします!!』
『結構よ!』

この、“篠原愛実”ちゃんが羨ましい。
あたしは、望にそんなこと言われた事ないから。
演技とか、そういうのでも。
冬舞台では、七世が言われてたけど。
できることなら、エドロポリスよりも・・・。
七世の役、やりたかった。・・・・・・なんて。
ブライアンに失礼だよね、あたし。

あたしはただ

テレビの向こうの彼を見つめながら

あの子に嫉妬、している―――――――――――――。


「――――――――!!び・・・びびったぁ・・・」

じぃーっとテレビを見てたら、急に携帯が鳴った。
いきなりだったから、心臓が飛び跳ねるぐらいびっくりした。
誰からだろ・・・・。
・・・・・・・もしかしたら・・・・!!
そんな淡い期待を抱きながら、あたしは受信ボックスを開く。
ディスプレイには「新着メール有」と表示されている。
どきどき・・・する。
あたしはぱちっと、それを開いた。


送信者・望
件名・やっぽぉ〜☆

小百合ぃ〜、会いたい会いたい会いたい!!
ってか今俺のこと見てたっしょ??
テレビの俺もカッコイイよなっ☆


ふっと自然に笑みが零れる。
やっぱ、好きだよ。望が好き。
テレビでも、なんでも望はかっこいいよ。
――――――――でも。


送信者・小百合
件名・Re:やっぽぉ〜☆

別に望見てたわけじゃないけど〜。
望はテレビでもなんでもかっこよくなんかないじゃん(笑)
立派な三枚目キャラでしょ!


悔しいから、褒めてやんない。
恥かしいから、認めてやんない。
それでも――――――――。
“望が好き”って気持ちは、あたしの中に、ちゃんとあるよ。


送信者・望
件名・Re:Re:やっぽぉ〜☆

照れるなよ〜(^□^)
あ、そうだ。明日なんかある??
俺、収録あるんだけど遊びに来ない?!
新人も来るよ!


――――――――――――――――新人?
って・・・あの、愛実ちゃん・・・とかもいる・・・のかな・・・。
でも・・・会いたいしなぁ・・・望と。
でもでも愛実ちゃんとか・・・。
あたしの中で沢山の感情が渦を巻く。
――――――――で、出した結果。


送信者・小百合
件名・Re:Re:Re:やっぽぉ〜☆

わかった☆絶対行く!!


・・・やっぱり、望に会いたい。
そっちの方が勝っちゃったよ・・・。


送信者・望
件名・Re:Re:Re:Re:やっぽぉ〜☆

やった!!じゃぁ明日迎えに行くから♪
あ。新人の篠原愛実ちゃんもいるけどいい??


最初の一行を見たときは、嬉しかった・・・けど。
明日・・・愛実ちゃんも一緒なんだ・・・。
望は、あたしとふたりっきりじゃなくてもいいの?
本当は・・・もうあたしなんかより愛実ちゃんの方が・・・。


送信者・小百合
件名・Re:Re:Re:Re:Re:やっぽぉ〜☆

全然いいよ!
ってか望とふたりっきりとかつまんないじゃん(笑)
楽しみ!(^□^)
あたしそろそろご飯だから終わるね!
じゃ、明日!!


本当は、まだご飯とかじゃない。
でも、絶対メールしてたら言っちゃいそうだから・・・。
“愛実ちゃんのほうが、好きなんでしょ?”
そう、言ってしまいそう。
それを言って、
“うん”
なんて言われるのが怖かった。
だから・・・中断、した。

「・・・・辛いよ・・・・望・・・」

あたしは布団に潜り込んで、そのまま目を閉じた。


「・・・ゆ・・・さゆ・・・小百合!!」

誰かに揺さぶられて、目を覚ました。
ぼんやりする視界の向こうは・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたし?
ああ・・・ぼけてる、あたし。
あたしじゃないって。お姉ちゃんじゃん。

「さゆりちゃん、大丈夫?お姉ちゃんですよぉ〜?わかりまちゅかぁ〜??」

お姉ちゃんは明らかにあたしを馬鹿にしてる。
・・・・お姉ちゃんじゃなかったら、絶対殴ってやったのに。
真っ暗なあたしの部屋の電気をつけて、お姉ちゃんはベットに腰掛けた。

「なんかあった?」
「・・・・別に」
「・・・小百合って、嘘つけないタイプなんだよねぇ」

あたしの反応にくすっと笑い、お姉ちゃんは言った。

「小百合、なんかあった?って聞いたら絶対『別に・・・』って答えるんだもん。
前もこんなことあったよねぇ。あのときは確か、山ちゃんが・・・」
「あー!!もうっ、わかった、わかったよ!!言う、言うから!!」

そんな昔の話出されたら困るよ・・・。
あたしの負けです。降参します。
あたしはお姉ちゃんに全てを話した。
望が好きすぎること。
それでも素直になれない自分が嫌なこと。
そして、愛実ちゃんに妬いてること。
全部、全部話した。

「・・・・小百合」

真剣な顔をして、お姉ちゃんはじっとあたしを見る。
しばらく見て、突然ほっぺをひっぱられた。

「にゃ、にゃにしゅんにょ?!(※な、なにすんの?!)」
「小百合可愛いっ!!さすが私の妹!!!」

お姉ちゃんの手から開放された頬。
しかし今度はあたし自身がお姉ちゃんに捕まった。
何・・・この人は・・・。

「よしよし、大丈夫大丈夫、きっと望くんも小百合が大好きだから!
明日、頑張っておいでね。有希子は応援してますよ〜♪」

そう言って、お姉ちゃんはスキップしながら部屋を後にした。
つくづく思うよ・・・嵐みたいな人・・・。
応援も何も・・・いやぁ・・・どうすればいいのさ・・・。

ぼーっとベットに座っていると、お母さんの怒鳴り声。
ああ・・・ご飯でしたか。
あたしは溜息をついて、お母さんに大きな声で返事をした。


朝六時。
・・・・うう。馬鹿だ、あたし・・・。
望が来るのは10時なのに・・・。
早く起きすぎだ!!
こんな形で大好きだなんてこと自覚させられるとは・・・。
・・・・ムカツク。
なんであたしばっかり・・・。

二度寝するのもどうかと思い、あたしは支度を始めた。
服とかも、すっごい真剣に選んだ気がする。
一時間は使ったよ・・・。
スカートでも着ようかな、なんて思ったけど・・・。
スカートなんて・・・着れないってば。着ないってば。
それでもまだ、望に会えるまで三時間。

「あーあ・・・何よ・・・もう・・・」

口から零れるのは愚痴ばっか。
こんな自分が大嫌い――――――――。


時間を潰していたら、もう10時。
そろそろ、望が来る・・・。
あたしはドキドキしながら、ずぅーっと外に出て待っていた。

「さーゆりっ!!」

向こうから聞きなれた声。
――――――――望の声。
望は着くなりあたしに抱きつこうとしてきた。
勿論あたしは、拒否。

「ひさしぶりぃ!!元気だった??」
「っていうか昨日メールしたじゃん」
「メールじゃ足んない!生さゆだぁ〜!!」

生さゆって何、生さゆって。
だけど全然変わってない望に、少し安心した自分がいた。
すると、ひょこっと顔を覗かせたのは、可愛らしい女の子。
愛実・・・ちゃんだ。
あたしは必死に笑顔を作って、にっこりと笑った。

「篠原愛実ちゃん?あたし、俵小百合。よろしくね」
「!はい!!よろしくお願いします!!」
「ほらぁー、早く行こうよ、小百合、愛実!!」

よかったぁ・・・挨拶、できた。
挨拶してからすぐに、望はあたしら二人を引っ張って行く。
・・・行ってる途中に、思ったけど・・・。

望と愛実ちゃんって・・・いつも一緒に行ってるのかなぁ・・・。

・・・ううん、そんなこと、考えちゃ駄目。
望喜んでくれたじゃん。浮かれてもいいはずだよ・・・ね。
あたしは自分にそう言い聞かせて、NHKへと向かった。


「あー!!小百合ちゃんだ!!」
「小百合ちゃ〜〜ん!!」

スタジオに入るなり、紫星と樹音が小百合に抱きついた。

「久ぶり〜元気だった?」

小百合もにこにこして、二人を抱き返す。
・・・ちぇ、なんだよ、俺のときは拒否ったくせに・・・。
樹音はともかく、紫星にはカチンときた。
俺にとって、紫星は年下ながらもライバルだった。
紫星は小さいながらもいい頭の持ち主で、小百合が大好きだった。
いっつも可愛い顔して

「小百合ちゃ〜んww」

とかハート振りまいてるくせに、俺にはにこりともしない。
付き合ってるって知れたときには、喋りもしない。
今は普通に喋ってくれるけど。
それでも卓也とかに比べると・・・冷たい。

だけど、別にいいや。
小百合は俺のこと好きなんだから!
小百合に好かれてるんだから、別にいい!!
小百合さえいれば、俺はどうでもいい!!!

「あ・・・あのっ、望!!」
「?何、愛実??」
「ドラマの打ち合わせだってさ!」
「おうよ〜。今行く!」

俺は愛実と一緒に、打ち合わせへ向かった――――――――。


「・・・あれ?」

樹音とか紫星とか、すっごい久しぶりだったから浸ってたけど・・・。
気付けば、望が・・・いない・・・。

「?小百合ちゃん??」
「あ・・・ううん、なんでもないよ」

望がいないことに違和感を覚えるあたし。
最初は気にしないようにしてたけど、やっぱり気になる。
あたしは樹音と紫星にまた後で、と言って、望を探しに行った。

望・・・・どこ行ったんだろう。
懐かしい廊下。あたしは去年まで、ここを歩いていたんだ・・・。
それで、出会った。
望に。あの人に。
ここはあたしたちを、知らず知らずのうちに繋げてくれていた・・・。

「いや〜、愛実最高っ!あのカップケーキ超美味かった!」

聞き慣れた声。でも、久しぶりに聞いた声。
幸生の、声。

「料理上手なんだな。あ、でも里穂のが上手いけどっ」
「何密かに自慢してんだよ」

あとに続いて彼女の自慢をしたのは、卓也。
どうやら卓也と幸生が話してるらしい。
愛実ちゃんの、話。

「俺思うんだけどさぁ、望と愛実って、付き合ってそうじゃね?」
「あー・・・でもさ、望って小百合と付き合ってんだろ?」

幸生の言葉に心臓が飛び跳ねた。
だけどその後の卓也の言葉に、少しそれは収まる。
それでも高鳴る鼓動を、止める事は出来ず。
ただ、二人の会話に耳を傾けているあたしがいた。

「望って案外浮気とかしなさそうな感じ」
「そうかぁ?卓也は何にも知らないんだって」
「何にもって・・・そりゃ、幸生よりは仲良くないけどさ・・・。」
「ありゃ絶対愛実が好きだな。小百合とは、そろそろ別れるんじゃん?」

――――――――ずきん。
幸生の言葉が、あたしの胸に突き刺さる。
そして・・・――――――――。


「いつも一緒にいない子よりも、ずっと傍にいる子の方がいいだろ」


トドメを刺すように、それはあたしの胸に入り込んだ。
ナイフでえぐられたような痛み。
耐え切れず、あたしはその場を去った。

「?!小百合?!」

後ろで聞こえてきたのは望の声。
だけど、あたしは聞かなかった。
聞かずに、走った。走った。
それでも、やっぱり男の子の足には・・・勝てない。
すぐにあたしは、腕を捕まれた。

「やだ!放してよっ!!」
「なんだよ!何にも言わないで拒否して・・・わけわかんねぇよ!!」

望のその言葉で、あたしの何かが崩れた。
今まで保っていた、理性が吹き飛んだ。

「あたしは何でもそう・・・!誰かの一番になれたことなんて一度もない!!
知ってた?!あたし、山ちゃんのこと好きだったんだよ!
三年間、ずっと・・・あたしが一番仲良かった・・・だから・・・。
だからあたしが山ちゃんの一番だって、思ってた。自惚れてた!
でも違うの・・・山ちゃんの一番はあたしなんかじゃない・・・。
山ちゃんの一番は、あたしじゃなくて・・・。
あたしは一番にはなれなかったの!!」

望はただ、黙って聞いてる。

「わかんないよ!あたし、何もわかんない・・・!
望の一番だって・・・今はあたしじゃないんでしょ?!
あたしじゃなくて、愛実ちゃんなんでしょ?!
そんなの嫌だよ・・・あたしは・・・。
あたしはずっと、望の一番でいたいよ!!!」

泣き叫んだ後に、何か、暖かいモノに・・・。
あたしは、包まれた。
それは紛れもなく、望で・・・。
久しぶりに抱きしめられたその腕の中は。
おっきくて、あったかくて、安らげて・・・。
望って・・・こんなに大きかったかなぁ・・・。

「一番だよ・・・小百合は、俺の」

その声も、大人っぽくなっていて。

「世界でどこ探しても、小百合以外、愛せるひとなんかいないから。
もう、小百合以外の人なんて愛せないから。
いつまでも、ずっと・・・俺の一番は小百合だけだよ」

だけどやっぱりまだ、あたしは子供で。

「・・・・キザ」
「大好き」

子供は子供なりに・・・そう。

「・・・・あたしも、望が一番だよ・・・」

素直に、なろう――――――――。


・・・・見ちゃった。
あーあ・・・失恋・・・なんだ・・・あたし。
あたしはふらふらしながら、その場から離れようとした。
けれどぴたり、と足が止まる。

――――――――こんなとこで、逃げちゃっていいの?

―――――――――あたしってこんなに弱かった?

――――――――――気持ちを伝えないまま・・・終わっていいの?

―――――――――――いいわけないじゃない。

そんなの、あたしじゃない。

「しっかりしろ!篠原愛実!!」

伝えるんだ、絶対。
それが、あたしなんだ――――――――。


次の日。
あたしの心に生まれていたひとつの決心。

「望っ」
「おっ。おはよー、愛実」
「あのね・・・話が、あんの」

収録の合間をぬって、あたしは望を呼び出した。
あー・・・どきどきする。

「――――――――あたし・・・望が好きなの」



「お疲れさまでした〜」

スタジオ内にそれが響き渡る。
お決まりのこの挨拶に、僕も慣れてきた。
いつものように帽子を被って、鞄を肩にかけて・・・。
さようなら、と呟いて楽屋を出た。

「あ、勇気!!」

そしたら卓也くんに引き止められた。
僕はてくてくと、卓也くんに近づく。
どうやら卓也くんは里穂さんと愛実を探してるみたいだった。
早口すぎて何言ってるかわかんなかったけど、僕は誰も見ていないので
わかりません。とだけ答えた。
そっか、と答え、卓也くんは僕に手を振ってまた愛実を捜し始めた。
愛実・・・・どうしたんだろう?
僕は疑問符を浮かべて、また出口へと足を向けた。
――――――――すると・・・。

「っく・・・っ・・・」

誰かのすすり泣く声。
僕はびくんっと身体を跳ねさせた。
何・・・?!え、お、お化け・・・?
興味本位で、それに少しずつ近づく。
その正体を見て、僕は硬直した。

「・・・・え?」
「・・・・・・えっ・・・!」
「つっ・・・つぐっ・・・!」
「ちょ・・・しーっ!静かにしてよ!!!」

びっくりして、大声をあげかけたところを愛実に止められた。
そしてそのまま皆の死角にひっぱりこまれる。

「なんでこんなとこにいんの・・・?」
「・・・・いいじゃない、別に。ほっといてよ。」

いやいや。引っ張ってきたのはアナタなんですけど・・・。
僕は溜息をついて、愛実を見た。
やっぱり愛実、目が腫れてる。
泣いて・・・たんだ。

「・・・何で泣いてたの?」
「・・・あんたに関係ないわよ」

それだけ返されて、沈黙。
なんか・・・キマズイ。
僕にどうしろっていうんだよ・・・。
・・・・あ。そっか。
泣いてる顔、見られたくないんだ。
だったら・・・・。

「――――――――?勇気・・・っ?!」

僕は愛実の頭に、被っていた帽子をのせた。

「これあげるよ。これで泣き顔見えないしさっ」

僕は笑って、そう言った。
そしたら・・・。

「え?!何、なんで泣いてんの?!」
「うっ・・ぇっ・・・」

え、え?逆効果??
しかもなんか愛実僕に抱きついてるし!!
なんかよくわかんないけど、本当に僕、どうすればいいんだよ〜?!
戸惑っていたら、愛実が呟いた。

「・・・ありがとぉ・・・」
「・・・・」

僕は、照れ隠しに頬を掻いた。
とりあえず、ぽんぽん、と何度も軽く、愛実の背中を叩いた。
何度も、軽く――――――――・・・。


「・・・・あ」
「里穂、いた?愛実・・・って、なんだよこいつら・・・」
「寝ちゃってるよ、愛実と勇気」
「けっ、可愛らしいこったな」
「拗ねない、拗ねない」

卓也と里穂は、顔を見合わせて笑った。
ふたりの前には、くっついて眠る愛実と勇気。
愛実の、新しい太陽は。
もうすぐそこまで、来ているのかもしれない――――――――。

*Fin*