「祭り、行こうよ」

それは熊ちゃんの一言から始まった。

―夏、マツリ...―

「祭り?なんで??」

あまり興味がなかったので、雑誌から目を離さずに聞く。
熊ちゃん自身も、よくわからない生き物のぬいぐるみを抱いて、ごろごろしながら話し出す。

「ほら、毎年そこであるじゃん。息抜きにいこーよ」

ねー、っと、ぬいぐるみに問い掛ける。
おいおい、何歳だよ…。

「嫌だよ、人多いじゃん。」

めんどくさい、と付け足して、また雑誌に目を戻す。
熊ちゃんは、むっと顔を引きつらせると、突然俺の上に乗ってきた。

「わっ…?!」
「行こうよ、祭り!!」

俺の上に馬乗りになり、顔を近づけてくる。
俺は熊ちゃんの首に手を回して、唇を重ねる。
ふぅ、と息を吐いて、もう一度抗議した。

「嫌」
「……」

さすがにこの攻撃には参ったのか、熊ちゃんは黙って俯いた。
ちょっと悪い事したかな、と、後々罪悪感に襲われたが、あまり気にはしなかった。
しかし、すぐに顔を上げて、熊ちゃんは最後の攻撃に出た。

「行ってくれないと、山ちゃんと一週間キスしないっ!!」
「いっ、一週間?!」
「会話もしないっ!!」

熊ちゃんはつんとそっぽを向いた。
一週間なんて冗談じゃない。
結果、俺は負けた。

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「…遅い」

ふと、時計に目をやった。
待ち合わせの時間は、6時。
時計は6時半を指していた。
自分で誘っといて、何やってんだか…。

「ごめん!遅れた!!」
「遅・・・!」

熊ちゃんが走って来た瞬間、俺は言葉を失った。
―否、彼の姿に見とれた。
熊ちゃんは、浴衣に見を包んでいる。

「どうしたの、それ」
「あー、これ?来る前、礼美につかまってさ。どこ行くのって聞かれて、山ちゃんと夏祭りつったら、これ着て行けって言われて。で、この様」

言い終えて、熊ちゃんは苦笑した。
俺は、今まで彼の妹である礼美ちゃんに、嫉妬心ばかり抱いていたが、今回初めて彼女が有り難く思えた。
そして、夏祭りに来てよかった・・・。

「どうしたの?早く行こうよ」

熊ちゃんはかわいらしく、俺の腕を引っ張る。
俺より一回り小さい体のため、自然と上目使いになっていた。

「うん」
俺は自分の欲望を抑えながら、一歩を踏み出した。

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「なー、一口くれよ〜」
「嫌だよ〜」

赤くなった舌をべっと出して、熊ちゃんは林檎飴を頬張る。
俺は小さく舌打ちして、自分のジュースを飲み出す。
ふと金魚すくいの屋台に目をやると、そこには見覚えのある人物がいた。
「卓也・・・?」

それは間違いなく卓也だった。
声を掛けようとすると、熊ちゃんに止められる。
熊ちゃんは顎だけで、卓也の隣を指した。

「?・・・あっ」

卓也の隣には、浴衣を来た少女。

「里穂・・・?」

里穂は卓也と楽しそうに金魚すくいをしていた。
すぐに紙が破れてしまう卓也を、里穂は優しく微笑んで見ている。

「恋人達の邪魔しちゃあいけないよ」

ねっ、とウインクすると、熊ちゃんはまた俺の腕を組んで歩き出した。
そっかー、卓也と里穂が・・・。
なんだか俺が嬉しかった。
去年まで、二人とも熊ちゃんしか見えてなかったからなぁ。
きっと、お互いの良さに気付いたんだな。
俺は自然に微笑んでいた。

「―っ!」

突然、景色が傾いた。
それは、俺自身が動いたんじゃない。
俺の腕を組んでいた人物―。

「熊ちゃん?!どうしたんだよっ?!」

熊ちゃんが、ぺたんとその場に座り込んでいた。

「ごめ・・・足、痛めちゃった・・・」

熊ちゃんはへへっと弱々しく笑う。
無情にも、人込みが減ることはない。

「ほら、乗りなよ」

仕方なく、俺は熊ちゃんをおぶって行く事にした。
少し恥ずかしそうに、熊ちゃんは俺の背中に乗る。
とりあえず、さっき見た神社にでも連れて行こう。
そう思い、歩き出した。

「…山ちゃん・・・」

しばらく歩いていると、熊ちゃんが小さな声で囁いた。
なんだろう、と熊ちゃんの方を見る。
そして周りを見渡すと、通り過ぎる人が、熊ちゃんの足辺りを見て行くではないか。
俺はすぐに感づいた。
熊ちゃんは、男から見ても可愛い。
小さな背丈に白い肌。
おぶっているため、浴衣から余計に見える足に、目が行くのだろう。
俺はカチンときて、先程よりも足を急がせた。

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やっと神社にたどり着いた。
人気のない神社に、熊ちゃんを座らせる。
そして、彼が履いていた下駄を脱がせる。

「ありがと」

濡らしてきたタオルを渡すと、熊ちゃんは小さくそう呟いて、痛んでいた所にタオルを当てた。

「大丈夫?」
「うん、平気」

小さな沈黙が流れる。
横目に熊ちゃんを見ると、俺が走ったせいか、胸元の辺りがはだけていた。
ドクン、と、心臓がはねる。

「山ちゃん?」

そっと俺を覗き込んで来た。
ついに俺は欲望を抑えきれなくなり、熊ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。
そのままその場に倒れ込み、はだけた浴衣に手を伸ばす。
少しずつずらしていくと同時に、唇も首筋に滑らせていった。
熊ちゃんはただ抵抗する。
そんな抵抗をかわし、下半身に手を伸ばそうとした、その時―。

ぱーん

大きな爆発音がこだました。

「花火・・・?」

夜空に大きな花が咲いた―。

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俺と熊ちゃんは、帰り道を辿っていた。
あの後、花火に見とれてしまい、終わった頃にはその気は失せてしまって…。
そのまま帰ってきたわけだけど…。

「あーあ、もったいねー」

俺は少しだけ後悔していた。
俺の背中に乗っている熊ちゃんは、ばか、と小さく呟いた。

しばらく歩くと、熊ちゃんの家に着いた。
俺は家の前で熊ちゃんを降ろす。

「じゃ、また」

熊ちゃんはすっと近づいてくると、少しだけ背伸びして、俺の頬にキスをした。
突然の出来事に、俺は驚きを隠せない。

「今日はありがと!楽しかった!」

少し離れた所から、そう叫ぶと、熊ちゃんは家の中へ入って行く。
俺はキスされた頬に手を当てて、しばらくその場にぽかんと立っていた。
そのとき、携帯に一通のメールが届いた。

[来年も一緒に行こうね]

ディスプレイには、短くそう表示されている。
送信者、熊木翔―。
俺はふっと笑みを零して、自分の家へと一歩を踏み出す。
背中には、まだかすかにぬくもりが残っていた―。



時期はずれなUP…。
夏祭りです、はい。
いやいや、ただ山熊が書きたかっ(誤爆)
楽しくかけたかな、うん、楽しく(楽しく?)