あの人の匂いが嫌い。


あの人の見下したような笑顔が嫌い。


あの人の、全てが嫌い。



「・・・・・・山ちゃん」



山元竜一は、そこにいた。
人気のない道具部屋の壁に足をかけ。
その手には、煙を噴く物。

―――――――――――――煙草。



「・・・やっと来た」

「また・・・・吸ってたんだ・・・・」



竜一はまだ中学生。
言わば彼は、“不良”。

テレビでは人気者の“山ちゃん”を演じきっている。
しかし翔は知っていた。
彼の“真実”を。



「関係、ないだろ」

「――――っ・・・」



無理矢理重ねられる、唇。
先ほどまで吸われていた煙草の匂いが、翔の口内に広がる。

竜一はいつもこうだった。
収録場では絶対に話し掛けてなど来ない。
彼の“裏”を知っているのは翔だけだった。
こうして、彼はたまに自分を呼ぶ。
呼ばれたとき、されることは――――――――。



「んっ・・・山っ・・・」

「し・・・誰か来たらどうすんだよ」



壁にきつく肩を押し付けられる。
そのまま首筋を伝う、竜一の舌。

呼ばれるのには、ある法則があった。
彼の、機嫌が悪い時。
その欲求は、全て――――――――。



「ぅっ・・・んっ・・・くっ・・・」

「喘ぎなよ・・・もっと・・・」

「ぁ・・・んはぁっ・・・!!」



翔へと、向けられる――――――――。



「足りねぇよ・・・足りねぇよ翔・・・・!」

「ぁ・・・ああああっっっ!!」



あの人の匂いが嫌い。


あの人の見下したような笑顔が嫌い。


あの人の、全てが嫌い。


嫌い、嫌い。大嫌い。


――――――――なのに。



「っぅ・・・山・・・ちゃ・・・もっと・・・もっとぉ・・・!」



――――――――どこかで、彼を助けたい自分がいる。

きっと彼は今、何かに追い込まれてるんだ。

信じてる。彼が彼に戻ってくれる事を。

まだ、心のどこかで信じてる。


彼が、戻ってきてくれるなら。


この身さえ、差し出して構わない――――――――。



あの人の匂いが嫌い。


あの人の見下したような笑顔が嫌い。


あの人の、全てが嫌い。




あの人の、全てを愛してしまっている自分が嫌い。